公開 2020 年 4 月 12 日 / 更新 2020 年 4 月 28 日

学習院大学理学部における遠隔授業について

これは学習院大学理学部と関連する教員のために用意したページですが、それ以外の方にも役に立つかと考え、公開しています。

理学部における遠隔授業に関するワーキンググループ

重要な注意:
学習院大学理学部における遠隔授業としてどのような形態が現実的でありかつ有効かについて(われわれ自身、遠隔授業の経験はまったくないながら)検討した結果を以下にまとめる。

学習院大学では、統合的な LMS(Learning Management System) である WebClass を遠隔授業を提供するための標準のプラットフォームに採用している。 すでに全教員のクラスの登録が終わりマニュアルもできている。今後、サポート体制も作られると期待される(ただし、学期のはじめに各教員が細かいサポートを受けられると期待しない方がいいだろう)。

いずれにせよ、大学が提供してくれるのは遠隔授業のプラットフォームだけである。 授業の中身(以下、コンテンツと呼ぶ)は、各々の教員が自分の科目に最も適切な形を考え自分で用意しなくてはならない。 残念ながら「普段と同じ講義を準備して教室に行けば係の人がいて遠隔授業の教材にしてくれる」というようなことはないとご理解いただきたい。

学期が始まる 5 月 11 日が迫っていることを考えれば、われわれ教員は早急に各自の遠隔授業のコンテンツを作り始めなくてはならない。 その上で、授業を提供するプラットフォームが具体的に決まってきたら、それに対応することを考えるのだろう。 以下のごく簡単なまとめがその一助になることを願う。 なお、学習院大学における遠隔授業の状況については計算機センターの久保山哲二先生による「遠隔授業準備のための覚書」に明快にまとめられている(←遠隔授業開始日までのカウントダウンもある!)。 また、大学全体の遠隔授業についてのまとめもできている。 この文書と合わせてお読みいただきたい。

このページの内容は、これからの状況の変化などに応じて、予告なく改訂していく。 また、修正・改良すべき点、ここに加筆すべき情報等があれば、委員にお知らせいただければ幸いである。

このページをまとめるにあたりワーキンググループメンバー以外の多くのみなさんに大変お世話になった。 お名前をあげる余裕はないがここに深く感謝する。

基本的な考え方

文科省から指針が出ているが(下の「資料など」を参照)、大胆に要約すれば、遠隔授業になっても学年暦通りに通常の対面講義を実施したのと同じレベルの教育をすることが求められている

よって、「指定した教科書や配布した資料を用いて自主的に学習するよう指示する」といったやり方は認められない。 毎週の授業とそれに伴う質疑応答などの代替となるものを遠隔で提供することが要求されているのである。 毎週、なんらかの形での授業内容を提供し、出席の代替ともなる小課題を提出させ、それを採点してフィードバックすること、学生から質問を受け付けて回答することが必須と考えられる。

また、こういう時期だから、学生に対してメールアドレスを公開し教員はいつでも質問を受け付けているということを普段以上に強調すべきだろう。

学生のインターネット環境

理学部学生の場合、インターネットの環境は比較的充実している。 化学科 2, 3 年生へのアンケートの結果は、 であり、物理学科 2 年生へのアンケートでもほぼ同様の結果が出ている。 いずれの学科でも、全員がスマートフォンでインターネットに接続できる。

一方で、特に一年生にはスマートフォンだけでインターネットに接続している学生がいることはほぼ確実である。 通信環境が不足する学生にタブレットやポケット wifi を貸与することを大学で検討しているともいうが、それがすぐに実現するとは考えにくい。 当面は、スマートフォンだけで接続している学生にも受講可能な遠隔授業を準備し、状況がはっきりしてきたら(必要に応じて)より高度な環境を必要とする授業に移行していくことを考えるべきだろう。

また、遠隔授業に伴う通信量(例えば、ファイルをダウンロードするなら、その容量)をどこまで抑制すべきかについては現時点でははっきりしない。 しかし、学生の通信料金の負担、大学のサーバーへの負荷、さらには社会全体としてインターネット利用の激増などを考えれば、まずはできるだけ通信量の少ない計画を準備することが望ましいと思われる。

授業のコンテンツ(オンデマンド型)

オンデマンドの授業(非同期オンライン授業)では、教員は定期的に授業に関する資料等を配信し、学生は(一定期間の間に)それらをダウンロードして受講する。さらに、課題の提出、講義への(メールや掲示板での)質問などを連動させる。 Zoom などによる同期オンライン授業と違って、教員は高い技術がなくても授業を発信できる上に、学生側も一時的なインターネットの障害などがあっても授業を逃す心配がない。 現時点ではこの方式を推奨する。 一方で、同期オンライン授業と比べると臨場感がないので、それを補って学習意欲を高める工夫が必要だろう。

また、遠隔授業においても授業の後、速やかに、学生から教員への質問と応答、また、学生同士の意見交換の場を持つことが求められている。 オンデマンド型の授業の場合、単に事前に作った教材を配布していくだけではこの要件を満たさないことに注意。 最低でも、毎回(メールなどで)学生からの質問や意見を受け付け、それらに個別に回答するだけでなく、質問・意見・回答・講評などをまとめたものを(例えば次回の教材の冒頭にでも)まとめて公開する必要がある。 WebClass では履修者のための掲示板やチャットが利用できるので、そういうシステムを利用するのが望ましいだろう。 (注意:web 上の無料掲示板は使うべきではない。一般に匿名での書き込みが容易なので(外部からの闖入者だけでなく、履修者による)悪意のある掲示が多発する危険があるからだ(というより、そういう「荒らし」はほぼ確実に起きる)。)

資料を用意する際には著作権が問題になるが(詳細はすべて省くが)今年は色々と特例が認められることになった。 もちろん、なんでもありというわけではく、例えば著作物をまるまるアップロートすることは(当然だが)許されない。 大雑把には、授業のために必要な範囲で教科書のグラフや表をコピーして資料に利用することは可能、 必要な一部を利用することは可能と考えていればいいとのことである。

また、Word, Excell, PowerPoint 等はマイクロソフト社の製品であり、全ての学生がこれらの形式のファイルを扱えるわけではない。 配布する資料は全て pdf 形式にすべきである。 また、pdf の資料をパワーポイント等から作成する際にはファイル容量が大きくなりすぎないよう注意する(Adobe Acrobat Pro を使えば圧縮できる)。

オンデマンドの授業としては、具体的には以下のような形式が考えられる。

pdf の資料のみを提供する

これが最小の形式。

教員は毎週、授業内容に相当する pdf の資料を配信し、合わせて課題も出題する(この際、メールを併用することもできる)。 学生は資料に基づいて学習を進め、課題を解いて提出し、疑問点があれば教員に質問する。

pdf の資料を配信する形式では、学生が学習時間をしっかりと確保するための工夫が必要である。 また、通常の講義で配布する資料や講義での板書に相当するものだけを配布して事足りるとすると、そもそも普段の講義には意味がなかったということになってしまうので、教材は通常のものよりもずっと丁寧に準備する必要がある。

演習の授業では、事前に問題を配布して全てを解いておくように指示し、授業の時間に(配布した問題の中から)解いて提出すべき問題を(例えば、メールで)指定し一定の時間内に解答をメールで送らせるといったやり方も考えられる。

pdf の資料と音声を提供する

教員の負担をそれほど高めず、学生に(かなり確実に)一定の学習時間を確保させ、また「教員の声」が届けられる最小の形式。

教員は毎週、授業内容に相当する pdf の資料と音声ファイルを配信し、合わせて課題も出題する。 学生は資料を見ながら音声ファイルを聞き受講する。 さらに、自分で学習を進め、課題を解いて提出し、疑問点があれば教員に質問する。

このような遠隔授業のサンプルを田崎が作成している。 この際、ファイルのサイズの小さな音声ファイルを作成する必要がある(WebClass の場合、一回の授業で配信するファイルの容量は 50 MB 以下なので圧縮しなければすぐにこの上限を超える)。 その方法は Windows の場合Mac の場合に、それぞれまとめてある。 この方式だと 1 時間の音声ファイルが 10 MB = 0.01 GB 程度のサイズになる。

音声ファイルが長く続くと受講者の集中力が途切れると考えられる。 講義は、例えば三つくらいのパートに分けて、それぞれのパートの終わりで簡単な課題(提出させる必要はない)を出すのもいいだろう。 学生は、そこで休憩し、復習して、次のパートに取りかかることができる。 そういった時間を含めることにすれば、音声ファイルは合計で 90 分ある必要はないと思われる。 (実際、出来上がった講義ノートをもとに音声だけを収録すると、板書で講義するよりもずっと早く進んでしまう。) また、音声ファイルを複数に分けて個々のファイルサイズを小さくすることによって、ダウンロードの途中でネット障害が起きてファイル情報が失われた際の被害を最小限にできるという技術的なメリットもある。

pdf の資料と動画を提供する

上のプランで音声ファイルを動画に置き換えたもの。 動画を提供する場合も pdf の資料は別個に提供するのが望ましい。 講義動画は Zoom などでかなり容易に作れるが、容量が問題になる。WebClass の場合、一回の講義で配信するファイルの容量は 50 MB 以下と決まっているので、動画を置くのは不可能である。 動画は YouTube 等のサイトにアップロード、あるいは、Zoom のクラウド上の録画機能を使用し、リンクを通知することになる。 (G-Port に送られた通知に従って)経営企画課に連絡すると、Zoom のアカウントを有料版にアップグレードでき(正確には、経営企画課のグループのメンバーになり)、0.5 GB のクラウドの録画のスペースが利用できる。

なお、通常の講義風景をそのままカメラで撮影して録画しても多くの場合は有用な教材にはならない(板書をカメラで撮影したものをスマートフォンで読むのは至難である)。 例えば、Zoom の録画機能を用い、画面共有でスライドのファイルや Zoom ホワイトボードへの板書を見せることにすれば十分に実用的なものができる。 iOS のアプリである Explain Everything EDU もこのような動画を作るために適しているという。 なお、動画の長さなどについては上の音声ファイルについての注意がそのままあてはまると思われる。

また、上の二つの方法との合わせ技で、課題についてのポイントの解説など、あまり長くないものだけを動画で提供するということも可能だろう。

授業のコンテンツ(同時配信型)

主として Zoom を使い、リアルタイムで授業を実施する。 今の段階では、大学からのマニュアルも出ていないので、学生の準備状況などを把握しながら進めてほしい。 (授業を開始してから、学生の状況を把握しながら同時配信を混ぜていくということも考えらえる。) 理学部の各研究室のゼミでは 4 月の時点でも Zoom が多用されていると思われる。

Zoom による遠隔授業はすでに東大などが着手して経験が急激に蓄積している。 下の「資料など」に簡単なリンク集がある。 なお、当たり前だが、同時配信型だからといって通常と同じ講義をしてそれを中継すればいいというわけではない。 オンデマンド型の場合と同じように事前に Web Class などを通して資料を配布するのが望ましい。

また、ネット障害や家庭の事情などで授業時間に受講できなかった学生のため、一定期間は授業の録画を視聴できるようにしておくべきだろう。 (G-Port に送られた通知に従って)経営企画課に連絡すると、Zoom のアカウントを有料版にアップグレードできる(正確には、経営企画課のグループのメンバーになる)。 これによって、0.5 GB のクラウドの録画のスペースが利用できるようになるので、WebClass 等からリンクすればよい。

授業を提供するプラットフォーム

冒頭に述べたように学習院大学では WebClass を標準のプラットフォームとしており、最終的には、多くの教員が WebClass を利用することになるだろう(ただし、大学がそれを強制するわけではない)。

ただし、学期初めに大学標準の LMS が過負荷で動かなくなるという事例がすでに多くの大学で見られれているので、(少なくとも授業開始の当初は) WebClass 以外の配信方法を用意する意味がある。 以下では、WebClass を含めた三つの配信方法について述べる。

なお、いずれの方法をとるにせよ、教員から学生への最初の連絡には G-Port を用いることになる。

理学部の授業一覧からの配信

理学部では WebClass 以外で配信する授業の一覧のページを用意した。さらに、この一覧ページを使って、「各回に一つずつの pdf ファイルを発信」という最もシンプルな形の遠隔授業のための、誰にでも使える(簡素だが実用的な)プラットフォームを提供している。この一覧ページは学外のサーバー上にあるので、学習院大学の計算機システムに負荷がかかっても影響を受けることはない。

自前の web ページを作る

学習院大学の教員は(適切な設定をすれば)極めて簡単に大学のサーバー上に自前の web ページを作ることができる。 そうすると、ここにある田崎のサンプルのような web ページから授業を発信することができる。 これは極めてローテクで作成したもので、テキストエディターで html ファイル(←いわゆる「ホームページ」の元になるファイル)を書き、それをブラウザ経由で学習院大学のサイトにアップロードしただけである。 初心者でも慣れればすぐにできる。

WebClass を利用する

重要な注意: 冒頭にも書いたように、1 回の授業で WebClass で配信するファイルの容量を 50 MB 以下にすることが求められている。動画はもちろん、音声ファイルでも工夫しなければすぐに 50 MB を超えてしまうので、クラウドの利用、ファイルの圧縮などの対策を取らなくてはならない。 しかも、(恐ろしいことに)システムの上ではファイルの容量に制限は設けられていないらしいので、気にしなければいくらでも大きなファイルをアップロードできるようだ。「アップロードできたから OK のはず」と思わず、しっかりと自粛していただきたい。

学習院大学では、統合的な LMS(Learning Management System)の一つである WebClass を標準的に用いることになった。 すでに全教員のクラスの登録が終わっており、履修者も登録されているはずだ。

計算機センター支援組織による教員向けの WebClass のマニュアルもできあがった。
 遠隔授業準備に際してよくあるお問い合わせ
をご覧いただきたい。

WebClass を使えば、

というこができるそうだ(田崎の友人からの伝聞で書いているので不正確かもしれない)。他に履修者が参加できる掲示板やチャットの機能もある。 遠隔授業に適していると思われる(他にも web 経由で問題を出して自動採点する機能などもある)。

WebClass の教員向けの公式のガイドがこちらにあるが、外国語教育センターの熊井信弘先生が同僚向けに作ってくださった以下の二つの動画は圧倒的に明快で、このシステムで何ができそうか(そして、それがどれくらい大変そうか)がわかる。
  熊井先生の動画(その 1) / 熊井先生の動画(その 2)

WebClass が利用できれば遠隔授業のプラットフォームとして十分だと思われる。

資料など

制度などに関する基本資料

遠隔授業のノウハウ

Zoom 関係


学習院大学理学部における遠隔授業についてのワーキンググループ
河野 淳也(委員長、化学)、 田崎 晴明(物理)、 平野 琢也(物理)、 岡本 久(数学)、 小島 修一(生命科学)、 柳 茂(生命科学)