川路紳治名誉教授が「目白キャンパス発」の基礎研究で学士院賞を受賞

さる平成19年3月12日、本学名誉教授の川路紳治先生が、日本学士院賞を受賞されました。
川路先生は、二十代の若さで本学理学部物理学科に着任され、目白キャンパスをベースに、当時はまったく未開拓の分野だった「二次元電子系」の研究を着々と進められました。「半導体境界面」という特殊な状況で、電子が平面的にしか動けないような特別な世界をつくりだすのです(詳しくは下の「解説」を参照)。先生は、この新しい世界を舞台に、電子たちがどのような面白い「物理」を見せてくれるかという、もっとも基礎的な興味から実験を続けられました。

その結果、「弱磁場下でのアンダーソン局在」や「量子ホール効果」をはじめとしたきわめて重要な発見をされ、先生は、半導体研究の世界的なリーダーと目されるようになりました。そのようなすばらしい研究を可能にしたのは、発想のオリジナリティー、決して流行に左右されない堅実さ、そして、学生さんをはじめとした多くの共同研究者と巧みに協力して超一流の実験をすすめる能力だろうと思います。先生は、世界的な第一人者になられたあとでも、つねに新しい「物理」をみいだすことを目指して、夢を語り、自ら先頭に立って日夜実験されていました。

川路先生は、もっとも基礎的な物理に関心をもっていらっしゃいましたが、先生の基礎的なご研究からは、さまざまな現代的な応用も生まれています。「量子ホール効果」は、今では、電気抵抗の標準値として用いられていますが、これについても、川路先生のグループの精密測定が本質的な役割を果たしています。また、先生らが開拓された「二次元電子系」は、今では、コンピューターや携帯電話に欠かせないものとなり、注目されるナノテクノロジーの分野の先駆けにもなりました。

川路先生が、この目白のキャンパスで、新しい科学を夢見て、新しい二次元電子の世界をつくりだし、そして、世界を変えうる超一流の発見をされたことを、私たちは誇りに思います。心からお祝い申し上げます。
川路紳治名誉教授

解説

川路先生の日本学士院賞の受賞理由は、「半導体境界面の電気伝導の研究」です。

シリコンの表面を酸化させてその上に金属を付けて、シリコンと金属の間に適当な電圧を加えると、シリコンと酸化シリコンとの境界面に、境界面に沿った方向にのみ動きうる電子群が発生します。これは、「二次元電子系」と呼ばれます。現在では他の種類のものも含めて、コンピューターや携帯電話の心臓部には二次元電子系が使われています。

川路先生は、1960年代の二次元電子系の研究の黎明期から、世界的にみても常にこの分野の先頭に立っておられました。川路先生の目標は、応用ではなく、二次元の世界の物理学を解明する事にありました。1960年代までは、一次元、二次元系は、理論家による架空のものとの感がありましたが、1970年代以降は、三次元系には無い、一、二次元系特有の現象が、実験的、理論的に発見されるようになりました。

その一つが、1979年のアブラハムズ(米)等によるアンダーソン局在の予言です。彼らによれば、二次元電子系は基本的には絶縁体であり、無限に大きい試料では絶対零度で電流が流れません。実際には、このような条件はあり得ないので電流は流れますが、川路先生は、1976年に既に、二次元電子系に弱い磁場を加えると電気抵抗が減少する事を観測していました。後に、これは、アンダーソン局在の一つの現れであることが理論的に示されました。又、この実験がヒントとなり、1950年代から半導体物理学の分野で謎と言われていた「負の磁気抵抗」(不純物を添加した半導体の電気抵抗が磁場により減少すること)のメカニズムも解明されました。その後、この分野は、実験と理論がうまくかみ合って、1980年代に大いに発展しましたが、川路先生は常に中心的な存在でした。また、この分野から、現在のナノテクノロジーが発生したと言えます。

二次元系電子系に特有なもう一つの現象は、「量子ホール効果」です。強い磁場中の二次元電子系の電気抵抗を測ると、ある条件の下で、電流は電圧をかけた方向と垂直の方向に流れ、電圧と電流の比(ホール抵抗)は、試料の詳細にはよらない普遍的な値(現在では、25812.807オームとされている)の整数分の1となります。川路先生は、この現象を、vonKlitzing(独)とほぼ同時に発見しました。上記の抵抗値は、標準として使われていますが、川路先生は、精密測定に力を注ぐと同時に、量子ホール効果の物理学の解明にも努力されました。精密測定には、電流が大きい方が有利ですが、あまり大きくすると、電圧をかけた方向に電流が流れだし、ホール抵抗の値もずれてきます。従って、これらの現象のメカニズムの解明は、実用的にも非常に重要です。これらの現象は、同時に起こると考えられてきましたが、川路先生は、最近の精密な実験により、別の現象であるとの新しい見解を示し おられます。

以上のように、まだポピュラーではなかった二次元の物理学にいち早く目をつけ、常に先頭に立って大きな分野に育て上げた功績は、非常に大きいものといえます。

ページトップ

4つの学科から成る、創造の場所

学科・専攻紹介

数学科

DEPARTMENT OF MATHEMATICS

代数学・幾何学・解析学が相互に融合し発展する、現代的で美しい理論の構築をめざし、単なる計算技術ではない創造的な研究を進めています。

化学科

DEPARTMENT OF CHEMISTRY

自然界のさまざまな現象や、くらしの中に存在する物質に注目し、基礎から応用まで最先端の分野で研究を行っています。

物理学科

DEPARTMENT OF PHYSICS

ミクロな原子や素粒子、身の回りの多彩な物質、生命を支える生体分子、そして宇宙にまでおよぶ最先端の研究を行っています。

生命科学科

DEPARTMENT OF LIFE SCIENCE

独創性を重んじ、分子から個体まで、微生物から動物・植物まで、幅広く生命の本質を見据えた最先端の研究を進めています。

入学をお考えの方へ

入試情報トップ

入試情報トップ

学部入試

学部入試

大学院入試

大学院入試